マイクのゲインとは、マイクから入る音声信号を、機器で扱いやすい大きさに整えるための調整です。まずゲインで入力を整え、そのあとにフェーダーなどで他の音とのバランスを決める。この順序が基本になります。
「声が小さいから、とりあえず全部の音量を上げる」と、ノイズが目立ったり、入力が大きすぎて音が歪んだりすることがあります。ここでは、ゲインと音量つまみの役割を分けながら、録音・配信でどこを見て調整すればよいかを説明します。
- マイク入力を整えるゲインの役割
- フェーダー・ヘッドホン音量との使い分け
- 最大入力レベルと機種別のPEAK表示
- 小さい声・音割れ・ノイズの見直し方
マイクのゲインとは?音量との違いと基本の役割
ゲインはマイクの入力信号を整える調整

マイクから出る音声信号は微弱です。その信号を増幅して、録音や他の音とのミックスに使えるようにするのが「マイクプリアンプ」。マイクを直接接続できるミキサーやオーディオインターフェースには、この回路が内蔵されています。外付けの機材を使っていなくても、入力部分で信号を増幅しているわけです。
その入力の大きさを調整するのが、GAINと表示されたつまみなどの役割です。ヤマハの解説では、GAINは入力の調整、チャンネルフェーダーは出力の調整と区別されています。ゲインを決める段階では、まずマイクから入ってくる音に注目します。
目標は、つまみをできるだけ大きな位置にすることではありません。小さすぎる入力を避けつつ、強い声が入っても歪まない状態に整えることです。声の大きさやマイクの位置も関わるため、実際に話したり歌ったりしながら決めます。「何時の位置なら正解」と覚えるより、入力の状態を見て合わせる調整だと考えてください。
ボリューム・フェーダー・ヘッドホン音量との違い
ゲインもフェーダーも、操作すれば音の大きさに関わります。違いは、どの段階を調整するかです。「ボリューム」という呼び方だけで判断せず、入力を整える操作なのか、音を混ぜるための操作なのか、自分が聴く音量なのかを分けると迷いません。
| 操作する部分 | 主な役割 | 調整する場面 |
|---|---|---|
| GAIN | マイクなどの入力レベルを整える | 入力が小さい、強い声で入力が大きくなりすぎる |
| チャンネルフェーダー・レベルつまみ | 各チャンネルの出力や音量バランスを調整する | マイクと楽器などのバランスを決める |
| ステレオマスターフェーダー | ミックス後の全体の音量を調整する | まとめた音の出力を決める |
| ヘッドホンつまみ | 接続したヘッドホンの音量を調整する | 自分が聴く音の大きさを整える |
※ミキサーの基本的な役割分担です。ヘッドホンつまみの説明は、ヤマハAG03MK2・AG06MK2の操作例に基づきます。
たとえばAG03MK2・AG06MK2では、ヘッドホン音量とスピーカー音量を別々に調整できます。一方、ヘッドホンつまみで音を小さくしても、本体のレベルメーターに出ているPEAKは消えません。耳に届く音が小さくなったことと、機器内部の過大なレベルが解消したことは、別に判断する必要があります。
上げすぎると音割れ、下げすぎるとノイズの原因に

ゲインが高すぎて入力が大きくなりすぎると、音が歪む原因になります。AG03MK2・AG06MK2の取扱説明では、チャンネルのPEAKが点灯して音が歪む場合、GAINを下げることが案内されています。聞こえ方だけでなく、入力側の表示も一緒に見るのがポイントです。
反対に、音割れを避けようとして入力を絞りすぎるのも得策ではありません。ヤマハは、GAINで小さくした音をチャンネルフェーダーで無理に大きくすると、ノイズが多くなると説明しています。入力を極端に小さくして、あとの音量調整だけで補う使い方には注意が必要です。
ただし、ノイズを減らすためにゲインを最大まで上げればよい、という意味でもありません。Akai Professionalの録音解説では、マイクプリアンプを最大設定にしたとき、許容できないノイズが発生することがあるとされています。
入力不足と上げすぎの両方を避け、メーターと録音した音で落としどころを探します。
適正値は何dB?つまみの位置とメーターの値を分ける
「ゲインはいくつにすればよい?」と迷ったら、つまみの設定値と、音が入った結果としてメーターに出る値を分けて考えましょう。調整の判断材料になるのは、実際に使う声を入れたときのレベルです。マイクの出力、声量、口との距離が変われば、同じ入力状態にするための調整も変わります。
録音ソフトの入力メーターについて、Akai Professionalは最大レベルを−12〜−6dBの範囲にする目安を示しています。これは平均レベルではなく、テスト中に最も大きくなった瞬間の値です。GAINつまみを−12〜−6dBに設定する、という指示ではありません。
この目安の目的は、クリッピングを避けるための余裕を残すこと。その余裕を「ヘッドルーム」と呼びます。同社の解説では、テストの最大レベルからクリッピングまで少なくとも6dB、声量が安定しない場合には12dBの余裕を取るよう案内されています。録音時点でメーターの上限ぎりぎりを狙う必要はありません。
一方、本体のランプは機種の説明に合わせて読みます。ヤマハAG03MK2・AG06MK2は、強く歌ったり弾いたりしたときにチャンネルのPEAKが一瞬点灯する程度がGAIN調整の目安。ローランドAeroCaster VRC-01は、最も大きな音でもSIG/PEAKが赤点灯しない範囲で上げる案内です。

ランプの名前だけを見て、別の機種にも同じ基準を当てはめないでください。
マイクのゲインとは?調整方法と音が小さい・割れるときの見直し方
実際に使う声で入力を整え、そのあとに音量バランスを決める
調整では、本番に近い内容を声に出すことが大切です。小さな声で「テスト」と言うだけでは、実際の録音でどれくらい声が大きくなるかを捉えにくいためです。Akai Professionalも、単なる入力確認ではなく、実際に録音する内容でテストテイクを行うよう勧めています。
- 本番で使う位置から声を出す。 実際に読む文章や歌う内容で、声の大小を含めて試します。
- 入力の表示を見ながらGAINを調整する。 本体は機種の指定するランプの状態に、録音ソフトは最大入力レベルに注目します。
- 大きな声でも余裕があるか確かめる。 普段の声だけでなく、テスト中の最大レベルを判断材料にします。
- 入力を整えたあと、各音のバランスを決める。 マイクと楽器などの比率は、チャンネルフェーダーやレベルつまみで調整します。
なお、調整前のフェーダー位置などは機種の手順に従います。たとえばAeroCaster VRC-01では、MICとMAINのフェーダーを太線付近に合わせ、入力ゲインを最小にしてから、実際の音声を入れつつゆっくり上げる手順です。
「先に入力の状態を決める」という考え方と、機種ごとの初期位置の指定は両立します。
基本の役割分担はヤマハの「PA虎の巻」、入力調整の具体例はローランドの入力ゲイン調整手順でも確認できます。手元の機器の説明書を見るときは、GAINの説明と、メーター・PEAK表示の説明をセットで読むと手順がつながります。
声が小さいときは、距離・入力設定・聴く音量を切り分ける


まず見るのは、録音ソフトに入る声そのものが小さいのか、自分がヘッドホンで聴く音が小さいのかです。入力メーターの最大値には余裕があり、聴く音だけが足りない場合まで、ゲインで補おうとする必要はありません。AG03MK2・AG06MK2なら、ヘッドホンの音量を調整する専用つまみがあります。
入力自体が小さく、ゲインを上げるとノイズが気になる場合は、マイクと口の距離を見直す余地があります。Akai Professionalは、可能であればマイクを音源に近づけ、マイクへ入る信号を大きくする方法を挙げています。距離を変えたら、同じ声で入力レベルを再度見ます。
すべてのマイクに共通する距離を決め打ちするより、実際の位置とレベルを対応させましょう。
機器側で入力を小さくする設定になっていないかも確認します。AG03MK2・AG06MK2では、LINEスイッチをオンにすると入力音が減衰します。音源の音量が小さい場合、こうした設定が原因で聞こえなくなることもあると説明されています。
この機種でLINEスイッチを切り替えるときは、切り替え時のノイズに備え、取扱説明どおりフェーダーやノブを最小にしてから操作します。
また、同機種のMIX MINUSがオンだと、対象チャンネルの入力音はヘッドホンやMONITOR OUTに出力されません。自分のマイク音が聞こえない状況では、ゲイン不足と決めつけず、モニターの設定も見る必要があります。配信ソフト側の音量調整も、メーカーが挙げる確認項目の一つです。
AG03MK2・AG06MK2で音が割れるときは、どのPEAKが点灯しているかを見る
音が割れるときは、すべての音量を一律に下げるより、過大なレベルがどこに出ているかを確かめます。AG03MK2・AG06MK2では、チャンネルのPEAKと、本体のレベルメーターのPEAKで、メーカーが案内する調整箇所が異なります。
| AG03MK2・AG06MK2での状態 | 見直す部分 |
|---|---|
| 音が歪み、チャンネルのPEAKが点灯する | GAINを下げる |
| 本体レベルメーターのPEAKが点灯する | 各チャンネルのレベルつまみを調整する |
| 接続した機器からの音量が大きすぎる | 接続機器側の音量を下げる |
| ヘッドホン音量を下げてもPEAKが残る | ヘッドホン音量ではなく、該当する入力・チャンネルのレベルを見直す |
ここでいう本体のレベルメーターと、チャンネルのPEAKは混同しないでください。AG03MK2・AG06MK2の本体レベルメーターでは、PEAKの点灯条件が−3dBFSと記載されています。この数値をチャンネル側ランプの点灯条件として扱ったり、録音ソフトの目標値へそのまま置き換えたりはしません。
同機種でGAINを左に回しきっても歪む、またはPEAKが頻繁に点灯する場合、前面の機能説明ではLINEスイッチをオンにして入力を減衰させる案内があります。操作前にはフェーダーやノブを最小にします。詳しい位置と条件はAG03MK2・AG06MK2の前面操作説明で確認できます。
ノイズや伴奏との音量差を、ゲインだけで解決しようとしない


ノイズが気になる場合は、入力を絞りすぎてあとから大きくしていないか、反対にプリアンプを上げすぎていないかを見直します。どちらも問題になり得るため、「ノイズがあるなら必ずゲインを下げる」とは決められません。録音ソフトに入る最大レベルと、実際に録れた音を合わせて判断します。
伴奏に比べて声が小さいときも、入力不足とは限りません。完成済みの伴奏は、すでに音量を整える処理が施されていることがあり、録音中の声とは音量の動き方が違います。声は小さな部分から大きな部分まで変化するため、伴奏の大きさに追いつこうとして入力を上げると、大きな声の場面で余裕を失ってしまいます。
この場合、Akai Professionalが案内するのは、録音中に聴く伴奏を下げ、入ってくる声とのバランスを取る方法です。マイク入力はクリッピングを避けて録るために決め、録音後の音量や質感はミックスの段階で整えます。



録音時点で完成済みの曲と同じ迫力を出そうとせず、まず声を歪ませずに収めることを優先しましょう。
距離や入力設定を見直しても十分なレベルが得られない場合は、マイクの出力とプリアンプの組み合わせも検討事項になります。同社は、出力の低いマイクでは、ノイズの少ない高ゲインのプリアンプが役立つ場合を挙げています。
ただし、音が小さいという症状だけで追加機材を決めず、まずは入力・ミックス・ヘッドホンのどの段階に問題があるかを絞るのが先です。
マイクのゲインとは?役割と調整のまとめ
この記事のまとめです。
- ゲインは、マイクから入る音声信号の大きさを整える調整です。
- 入力はGAIN、各音のバランスはフェーダー、自分が聴く音量はヘッドホンつまみで分けて考えます。
- 入力を絞りすぎてフェーダーで補うと、ノイズが多くなることがあります。
- ゲインを上げすぎると、音の歪みやプリアンプのノイズが問題になる場合があります。
- Akai Professionalが示す録音の目安は、ソフトの最大入力レベルで−12〜−6dB。ゲインつまみの設定値ではありません。
- 本体のPEAK表示は機種ごとの説明に従い、別機種や録音ソフトへ同じ基準を当てはめません。
- 本番に近い声でテストし、最も大きな声でも余裕が残るよう入力を調整します。
- 声が小さいときは、口との距離、入力を減衰させる設定、モニター設定を切り分けます。
- AG03MK2・AG06MK2の音割れ対処では、チャンネルのPEAKと本体レベルメーターのPEAKで調整箇所が異なります。
- 録音中に伴奏へ声を合わせるため、マイク入力を上げすぎないこと。伴奏を下げて聴くバランスを取る方法があります。









