ステレオ録音とは、左と右の2つの音声チャンネルを使って音を記録する方法です。音の方向や広がりを表現できるため、演奏やその場の臨場感を残したいときに向いています。一方、一人の話し声を明瞭に届けることが目的なら、モノラルも適した選択です。
「ステレオのほうが上」と考えるより、何を残したいかで選んでみましょう。
- 左右2チャンネルで音の方向や広がりを残す仕組み
- 声の明瞭さと演奏の臨場感による使い分け
- 内蔵マイクとXY・AB方式の選び方
- 片側だけの音とモノラル再生時の確認点
ステレオ録音とは?モノラルとの違いと使い分け
左右2つのチャンネルで音の方向と広がりを残す

ステレオの基本は、左チャンネルと右チャンネルを別々に扱うことです。チャンネルは、ここでは音を記録・再生するための経路と考えるとわかりやすいでしょう。左右に異なる音の情報を持たせることで、左にある楽器、右にある楽器といった位置関係や、音が広がる感じを表現します。
この「どの方向から音が聞こえるか」という定まり方を、音響では定位と呼びます。たとえばステレオの音楽では、楽器を左右に配置しながら、歌声を中央から聞こえるようにする表現が可能です。左右2チャンネルだからといって、すべての音が左端か右端に分かれるわけではありません。
中央を含めた音の配置を表現できるところがポイントです。
マイクでその場の音をステレオ収音する場合は、複数のマイクを使い、方向感や奥行き感を捉えます。ヒビノは、その応用例としてオーケストラや合唱、ピアノ、独奏などを挙げています。一方、完成した音楽の左右への配置にはミキシングも関わります。
「その場の広がりをマイクで録ること」と「完成音源を左右2チャンネルで聞かせること」は、分けて考えると混乱しません。
モノラルとの違いはチャンネル数で、音質の順位ではない
| 比較する点 | モノラル | ステレオ |
|---|---|---|
| 記録するチャンネル | 1つ | 左右の2つ |
| 音のまとめ方 | 1つのチャンネルにまとめる | 左右を別々に扱う |
| 表現の特徴 | 左右の広がりより、ひとまとまりの音を伝える | 音の位置関係や左右の広がりを表現する |
| 選ぶ目安 | 話し声など、単一の音声の明瞭さを重視 | 演奏の配置や空間的な臨場感を重視 |
間違えやすいのが、「モノラルは片側からしか聞こえない」という理解です。モノラルの録音でも、同じ信号を左右に送れば両側から再生できます。Sonosは、ステレオスピーカーでモノラル録音を再生するとき、左右に同じ信号を複製する形を「デュアルモノ」と説明しています。
両側から音が出ることだけでは、左右の違いを持つステレオかどうかは判断できません。
また、ステレオという名称だけで音質の優劣が決まるわけでもありません。Sonosも、ステレオがモノラルより絶対的に優れているわけではなく、単一の音声や楽器の明瞭さに注目する場合はモノラルが適すると説明しています。広がりのある音を残したいのか、一つの声や音を中心に聞かせたいのか。
比較の軸は、この目的の違いです。
一人の話し声やポッドキャストはモノラルを軸に考える

一人で話すポッドキャストや、内容を聞き取ってもらう講演録音なら、まずモノラルを軸に考えられます。エデュコンは講演録音やポッドキャストをモノラルの用途に挙げ、Sonosも単一の音声の明瞭さを重視する用途にモノラルを勧めています。話している人の左右の位置より、声の内容を伝えることが中心となる場面です。
ただし、「人の声だから必ずモノラル」と決める必要はありません。合唱や独唱も、ステレオ収音の対象になります。一人の声をひとまとまりの音として届ける場合と、歌う人たちの配置や演奏空間を含めて残す場合では、録りたいものが違うからです。

同じ声の録音でも、話の内容が主役なのか、音楽としての広がりが主役なのかを先に決めましょう。
左右から声が聞こえてほしいという理由だけで、録音設定をステレオにする必要もありません。モノラル音声を両側へ再生することは可能です。まず録りたい声に合うチャンネル構成を選び、その後に再生の左右を確認する。この順番なら、録音方式と聞こえ方を取り違えずに考えられます。
楽器や環境音は、残したい広がりから選ぶ
複数の楽器や歌い手の位置関係を残したいなら、ステレオが候補になります。ヒビノが挙げる用途には、バンド、合唱、ジャズのアンサンブル、ピアノの近接収音などがあります。TASCAMも、アコースティックギターのデュオや大人数の合唱を例に、マイクの配置を変えて集音する考え方を紹介しています。
人数だけでなく、音がどの範囲に広がっているかにも目を向けたいところです。
楽器が一つでも、ステレオを使う意味はあります。ヒビノの例には独奏やピアノも含まれており、「楽器1台ならモノラル、2台ならステレオ」という分け方にはなりません。単一の楽器の明瞭さを中心にするならモノラル、方向感や奥行きも表現したいならステレオというように、残したい聞こえ方から考えます。
環境音でも、選ぶ軸は同じです。たとえば「その場所の左右への広がりを伝えたい」という目的なら、方向や広がりを表現するステレオの特徴が合います。一方、「特定の音をひとまとまりで聞かせたい」という目的なら、モノラルも検討できます。
これは録音対象の名前で決める分類ではなく、ステレオとモノラルの特徴を目的に当てはめる考え方です。
ステレオ録音とは?始めるための機材・録音方式・確認点
内蔵ステレオマイク付きレコーダーなら一体型で始められる
マイクでステレオ収音する道具には、特性のそろった2本のマイクを配置する方法と、ステレオマイクを内蔵したレコーダーを使う方法があります。「複数のマイクを使う」と聞いて、外付けマイクを必ず2本購入しなければならない、と考えなくても大丈夫です。
レコーダー本体に左右の収音を担うマイクが組み込まれた機種もあります。
構成例として、TASCAMの「DR-07X」は可動式のマイクを搭載し、A-B方式とX-Y方式の両方に対応しています。マイクの配置を変え、広がりを重視した録音と、左右の位相差を抑えた録音を使い分ける設計です。外付けマイクを個別に配置する前に、一体型の機器で録音方式を試すという選択肢もあります。
機材を見るときは、録音機能と再生機能を分けて確認しましょう。DR-07Xはステレオ録音に対応していますが、内蔵スピーカーはモノラルです。一方で、ステレオのライン出力/ヘッドホン出力端子を備えています。本体のスピーカーだけを聞いて左右の広がりを判断せず、ステレオ出力からの再生も確かめたいところです。
録れるチャンネル数と、内蔵スピーカーの再生方式は同じとは限りません。
XY方式は定位、AB方式は広がりを手がかりに選ぶ


XYとABは、マイクの置き方によるステレオ収音方式の違いです。XY方式は、2本のマイクの音を捉える振動板を近い位置にそろえ、角度を付けて配置します。AB方式は、マイク同士の間隔をあける方法。名前だけを覚えるより、左右のマイクを近づけるか、離すかに注目するとイメージできます。
| 比較する点 | XY方式 | AB方式 |
|---|---|---|
| 基本の配置 | 振動板を近い位置にそろえ、角度を付ける | マイク同士の間隔をあける |
| 着目したい特徴 | 定位感とモノラルへのまとめやすさ | 広がりの表現と、録る範囲に合う間隔 |
| 注意点 | 広がり感が狭くなる場合がある | 到達時間の差による音の打ち消し合いが起こり得る |
| 判断の手がかり | 音の位置や中央の音を重視するか | 広がりを重視しつつ、音色の変化も確認できるか |
AB方式で大切なのは、マイクの間隔を広げればよいとは限らないことです。ヒビノは、間隔を録る音源の大きさに合わせる必要があると説明しています。小さな楽器ではマイクを近づけ、間隔も狭くする考え方です。
間隔を広げると、実際以上に左右が分かれて聞こえたり、中央から外れた音の位置がぼやけたりする傾向もあります。
XY方式にも「必ずこの角度」という一つの値があるわけではありません。ZOOMの配置例は90度または120度、ヒビノの説明には135度などの例があります。これらは設置例であり、どのレコーダーでも同じ角度へ動かせるという意味ではありません。
内蔵マイクを使う場合は、その機種が対応する配置を前提に選びます。DR-07Xでは、TASCAMがABを広い範囲、XYを中央の音の集音という観点で説明しています。
片側だけ聞こえるときは入力の割り当てを確認する
マイクの音が片側からしか聞こえない場合、入力と左右チャンネルの割り当てが関係していることがあります。具体例として、Focusriteは「Scarlett Solo(第4世代)」について、アプリによって入力1が左、入力2が右へ振り分けられると説明しています。
この状態で一つの入力だけを使うと、使用した入力に対応する片側からしか聞こえません。
同社は、入力を選べる録音ソフトでは入力ソースをモノラルにし、それぞれの入力を別トラックへ録音できると案内しています。一つの声を録る場面では、左右一組の入力を選ぶことより、マイクを接続した入力を適切に選ぶことが重要です。
ただし、これは入力の割り当てによる例であり、片側だけになるすべての症状を同じ原因と断定するものではありません。
Scarlett Solo(第4世代)には、対応するアプリ向けに入力1と入力2をまとめる「Combine Input 1 and Input 2」設定もあります。有効にすると両入力を合成し、左右の両側から聞けるようになります。
一方、Focusriteは入力チャンネルを選択できる録音ソフトで録る際には、この機能を無効にすることを推奨しています。入力を分けて録る場合と、アプリへまとめて渡す場合で、必要な設定が異なります。
モノラルにまとめたときの音色も確かめる


ステレオ録音では、左右に広がって聞こえるかに加え、左右の信号を合わせたときに音が変わらないかも見ておきたい点です。離したマイクでは、同じ音が左右へ届く時間に差が生じることがあります。信号を合わせた際、その差によって一部の音が弱め合う現象が位相キャンセルです。
影響は音の高さによって異なり、音色の変化につながることがあります。
ヒビノは、収音したステレオ信号をモノラルにまとめ、特定の周波数が大きくなったり小さくなったりしないか確認する方法を紹介しています。放送など、モノラルで使う予定がある録音では、とくに関係する確認です。



広がりがなくなるという方式上の違いと、一部の音が打ち消されて音色が変わることは、分けて聞き比べましょう。
XY方式は、モノラルにまとめたときに問題が生じにくい方式とされています。モノラルでも使う見込みがあるなら、この互換性も選択理由の一つです。一方、AB方式も広がりを表現する方法として使われており、常に避けるべき方式ではありません。
声を明瞭に残すのか、演奏の広がりを残すのかを決め、必要な録音方式を選び、最後に実際の再生音で確かめる。ここまでを一続きで考えると、機材の「ステレオ対応」という表示も目的に結び付けられます。
ステレオ録音とは何か・使い分けのまとめ
この記事のまとめです。
- ステレオ録音は左右2つのチャンネルを使い、音の方向や広がりを表現する方法です。
- モノラルは1チャンネルですが、同じ信号を左右へ送れば両側から再生できます。
- ステレオが常に高音質というわけではなく、残したい音に合わせて選びます。
- 一人の話し声やポッドキャストでは、明瞭さを重視してモノラルを軸に考えられます。
- 合唱や楽器の演奏、環境音の広がりを表現したい場合はステレオが候補になります。
- ステレオマイクを内蔵したレコーダーなら、外付けマイクを個別に用意する以外の構成で始められます。
- ステレオ録音対応でも内蔵スピーカーがモノラルの機種があり、録音と再生の仕様は別に確認します。
- XY方式は定位やモノラルとの互換性、AB方式は広がりと音源に合うマイク間隔が判断の手がかりです。
- 片側だけ聞こえる場合には、アプリが各入力を左右へ振り分けている例があり、入力設定の確認が必要です。
- ステレオ信号をモノラルでも使う場合は、合成による音の打ち消し合いや音色の変化も確かめます。
参考にした情報
- モノラルとステレオサウンドの違いとは? – Sonos | Sonosブログ
- XYステレオマイクとは? | ZOOM
- ステレオ録音の種類と使い分けを解説。レコーディングにおすすめのマイクも紹介!|業務用音響機器の通販サイト Hibino.com | 業務用音響機器の通販サイト「Hibino.com」
- DR-07X | ステレオオーディオレコーダー/USBオーディオインターフェース | TASCAM (日本)
- H1n | ZOOM
- Scarlett Solo 4th Gen one or two input app compatibility – Focusrite
- 録音モード「モノラル」と「ステレオ」 – エデュコン教材制作






